JOURNALS

ON the RINDO #01 -奥日光 男体山麓周回ライド-

2023-11-01 執筆者 : FUMUTRA

どこか楽しそうなルートはないもんかと、なんとなくRWGPSのマップを眺めていると、栃木県の男体山の北側にいくつかの破線が伸びている事に気がついた。破線は未舗装の林道や登山道を表すが、この破線に沿って「野洲原林道」や「志津林道」と記載されている。聞き馴染みのない名前だけど、これらを繋げると男体山をグルっと一周できてしまう。

男体山が位置する場所といえば日光。東武日光駅を起点として男体山を周回すれば、幾つもの観光名所を通過した後に奥日光のグラベルを楽しめるはず。これはむくむくと期待が膨らむ。

ただし、このルートはRWGPS上ではまだ誰もアップしていない。自転車では通れない可能性もある。今度はGoogleMapでも確認してみた所、こちらは道とさえ認識されていない。まっさら。やっぱダメなのかな?でも衛星画像で拡大してみると確かに1本の筋が確認できる。

ならばと林道名で検索してみると、MTBやモトクロスで走った記録がわずかにヒットした。結構大変そうだけど、走れないこともなさそう。まさにマイナールート。いいね!ウズウズと落ち着かない感覚が押し寄せる。こうなるともうダメ。すぐ行きたい。

2日後、僕は日光を訪れた。

早朝4時半、自宅から赤羽駅まで自走し、そこから輪行で日光を目指す。が、案の定寝坊。なかなか起きない頭を左右に揺らしながら駅まで急ぐ。

到着した赤羽駅の周辺はまだ夜が続いている様子で、酔っ払った人々が賑やかに街を行き来している。楽しげな光景を横目に、バラした自転車を輪行バッグに詰め込んでホームヘ駆け込む。

ギリセーフ!どうにか予定の電車に間に合った。運転席側の手すりにバッグの紐を結びつけ、空いてる座席に腰をおろす。

ホッと一息。さてと、走行音だけが響く車内で買っておいたパンをこっそりと齧る。この気の抜けた時間が結構好きで、早朝輪行のささやかな楽しみだったりする。

電車に揺られること2時間半、快晴の東武日光駅へ到着。時刻は8時を過ぎたところ。紅葉シーズンにはまだ早いけど、駅前は多くの人で賑わっている。見回した限りだと登山を目的とした人が多そうだ。

この一帯の山塊は日光連山と呼ばれていて2,300mから2,500m級の山々が連なっている。特に人気なのはやはり男体山だろうか。百名山に名を連ね知名度も全国レベルではあるが、古くから霊峰として日光山岳信仰の中心になっていたようで、現在は世界遺産でもある二荒山神社の御神体となっている。今でも男体山へ登る際は"登山"ではなく"登拝"というそうな。

今回はこのありがたいお山の麓で、バチが当たらない程度に遊ばして頂こう。サクっと輪行を解除し、コンビニで補充を済ませたら早速出発。

まずはロマンチック街道をしばらく走って、いろは坂を目指す。揚々とスタートを切ったものの、、、なんだよ、早速キツいじゃないか...。初手から続く地味な登りに呼吸が乱される。

とはいえ、序盤から辛そうにしているのもなんだか恥ずかしい。涼しい表情を顔に貼り付けながらいろは坂を目指す。

痩せ我慢も限界に近づいてきた頃、ようやくいろは坂に到着。休憩所で呼吸を整えて、いざ突入。

最初こそゼェハァと荒く呼吸をしていたけど、徐々に体が順応してきた。苦戦を覚悟したけどペースを上げなければどうにか大丈夫そう。

時間もたっぷりとあるし、山伏の気分でじっくりと登っていく。心静かに、颯爽と横をすり抜けていくロード乗りに心を乱されることなく、黙々と。

高度が上がるにつれて、どんどんと景色が広がっていく。明智平に到着する頃には風光明媚という言葉がパシっとハマり視界が一気に開ける。

目の前には、かの男体山が鎮座し、その迫力にしばらく圧倒された。これからこの山を一周することを考えるとワクワクする反面若干ビビる。

明智平から少し登った先のトンネルを過ぎると、湧き水をとっぷり湛える中禅寺湖が現れた。

さすが日光。かなりの数の観光客で賑わい、相応する数のホテルや食事処が連なっていた。山岳信仰とか霊峰なんて言葉が脳内にあっただけに少し拍子抜けするも「湖水魚料理」の看板を目にした瞬間、山伏モードは即終了。食欲に支配された俗人に戻る。オサカナタベタイ。

エネルギーもしっかりと補給し、足取り軽く再出発。徐々に秋を感じる景色が広がり始める。

戦場ヶ原に到着。

随分と物騒な地名だが、大昔に男体山の神様と赤城山の神様がうまい魚がウヨウヨいる中禅寺湖をめぐって争った戦場がこの場所で、それに因んで戦場ヶ原と名付けられたそうな。この一帯は広大な湿原となっていて、尾瀬のように木道が整備されている。次回ここを訪れた時はハイキングを組み合わせるのも楽しそう。

それにしても、今回のルートは進むごとに風景がガラっと変わり全然飽きない。天気の良さも相まってテンションが高い。寝不足も吹き飛ぶ。

戦場ヶ原を少し進んだ先で脇道に逸れると、いよいよ男体山北麓を抜ける起点に到着。

明智平から見て男体山のちょうど裏側。字面が妙に引っかかる裏男体線からスタートし、野州原林道、志津林道、そして裏見滝線までを結ぶと男体山をぐるっと一周するルートを辿る。

ここからしばらくは登りが続くが、ありがたい事に登りきるまではずっと舗装路。

しかし油断をしちゃいけない。奥日光は熊の生息地なので、熊鈴をセットしていざ出陣。

5~8%程度の傾斜を淡々と登っていく。ジワジワと足を削られ続けるが、キレイに舗装された道を進みながら山奥へ分け入ることができる。RWGPS上では未舗装路と認識されている場所すら舗装されていた。ありがたや。

裏男体線をスタートして1時間。男体山への登山道と北麓を巡る林道が分岐する志津乗越に到着。ここが登りの到達点で、以降は下り基調の未舗装区間となる。

しばらく休憩していると数名の登山者が男体山から下ってきた。山頂まで自転車で行くと思われたのか、奇異な視線を肩越しに感じる。こちらから話しかけて説明するのもおかしいので、タイヤの空気を少し抜き、そそくさと山奥に続く道へハンドルを向ける。

うわ、すげえ!普段走る林道とは異なる風景にテンションがさらに上がる。奥日光恐るべし。苦労してここまで来た価値は充分にあった。

まるでデザインされたように整然とした山腹がどこまでも続き、鬱蒼とした雰囲気はまるでない。そこに一筋の林道が拓かれクネクネと伸びている。立ち枯れた木や倒木、熊笹も人為的にレイアウトされたかのように美しい。

この日のタイヤはグラベルキングSS 32Cのチューブレス。空気圧をF:2.3/R:2.5BAR程度まで下げたが、全体的に結構苦戦した。理想は40C以上、MTBなら尚良しといった感じだけど、ここまでのアプローチを考えるとあんまり太いタイヤも気が引ける。

暫く進むと崖が崩れて柵がされた場所に出くわした。こんな一角すら絵になる。

木々に囲まれているため遠くまで見渡せる眺望は少ないけど、それを補う程に視界を楽しませてくれる。

事前に先人のブログを確認した際には、かなりえぐれた箇所か取り上げられていたが、それらに出くわすことはなかった。全体的に補修が済んでいる様子。決して自転車が走り易いコンディションとはいえないが、通れるだけで感謝。

ザレ場も点在するので押し歩きを交えながら進む。

それでも稀に気持ち良く走れるグラベルが現れる。飴と鞭が交互に与えられ、飴区間では堰を切ったようにアドレナリンが放出される。

誰もいない山中に歓喜の奇声が何度も響き渡った。もしかしたら熊よけの効果もあったかもしれない。

暫くくだるとぽっかりと開けたスペースにたどり着いた。押し歩きもしたけどノンストップで1時間以上はくだり続けている。楽し過ぎて忘れていたけど結構クタクタ。ここで少し休憩。

地面に座り込んだ瞬間、なんだか地球上の人間が自分一人になってしまったような感覚になった。怖いくらい静か。風・鳥・虫が生み出すアンビエントだけが聞こえ、その他のノイズは一切ない。

自転車は静かな乗り物だと思っていたけど、この場所の音は全然聞こえていなかったことに気づく。

なんだかんだと時間が過ぎていたようで、随分と影が伸びている。そろそろ山をおりなきゃ。こんなところで真っ暗はさすがにマズい。

いかん、随分と薄暗い。焦って時計をみると、まだ15:40。ほんと山は暗くなるのが早い。でもあと少し。裏見の滝まで残り3.7km。

数時間ぶりに舗装路と再開!も束の間。またすぐにグラベルに戻る。もうお腹いっぱい...。

ようやく裏見の滝の駐車場に到着!クタクタになりながらも男体山一周を無事走破。

ここから東照宮を横目で楽しみ、東武日光駅にゴール!...のつもりが、途中で偶然見つけた圧巻の杉並木にやられてしまう。気づいたら日光をとっくに過ぎていて、どうせならと何駅か先の新鹿沼駅まで走ってしまった。

距離93.5km、獲得標高1,493mとのこと。

体感ではもっと走ったつもりだったけど、グラベルも長かったしこんなもんか。もう満腹!ご馳走様でした!

 

今回のルートの他にも気になる場所をいくつか見つけてしまったので栃木はまた探検してみたいと思います。

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